小黄金樹の手記│

3ページ目 祝福と使命

「それで早速デミゴッドって何か、なんで導きはまっすぐストームヴィル城を指してないのかって問いただしたら、自分の目で見て調べろ〜!って怒っちゃってさ。ヴァレーさん親切なのかそうじゃないのか分からないねぇ」

「えっ、今でも親切かもしれないと思ってるんですか…?」

ヴァレーの助言に従い、導きが示す先に進み始めた褪せ人は、道中雨だけは凌げるボロ家を見つけた。嵐の止まぬ地ではそんな場所も貴重なのだろう、既に先客が居たが、褪せ人が一休みするのを快く受け入れてくれた。話してみれば、その少女もこの地を訪れた同じ『褪せ人』のようだ。

しかし少女の話では、デミゴッドと呼ばれるストームヴィル城の城主ゴドリックも、城内の者も褪せ人達を歓迎している訳では無いらしい。それどころか四肢、首を切り落とし、蜘蛛に接ぐ─などという恐ろしい所業の材料にするなんて。最早まともな場所で無い。

そんなストームヴィル城で従者を失い、少女はすっかり心が折れてしまっていた。手足を、首を切り落とされ、蛆になってしまった従者たちと『同じ』になりたいと願う程に。ヴァレーが少女にも、かの城を目指すよう助言したのなら─彼は何も知らぬ褪せ人達を、次なる接ぎの材料にしようとしたのではないか?─と疑いたくなる少女の気持ちも分からなくもない。

「しかしなぁ…」

褪せ人は少女から眼の前の祝福に視線を移した。その祝福は目的地を真っ直ぐ指し示すものではない。しかし、分かれ道にたどり着けば新たな祝福が、といった具合に、人が歩ける道を指し示してくれている様なのだ。そしてそれは、確実にストームヴィル城に近付いている。

褪せ人に齎された祝福、代わりに果たすべき使命は、確かにこの道の先にあるのだろう。ヴァレーも少しばかり危ない城であると教えてくれても良い気はするが、まるっきり嘘をついている訳では無さそうだ。

と言っても、その事実を心折れた少女に伝える必要はない。かといって慰めの言葉も思いつかず、褪せ人は眉を落とす。少女一人元気付けられないとは、情けない。

「ああ、そうです貴方、この子をお連れ頂けますか?」

ひっそり落ち込む褪せ人の横で、はたと思い出したように少女が懐から何かを取り出した。少女の手に乗るそれは、小さな箱だった。蓋の部分には、クラゲの姿が彫り込まれている。

「それは…遺灰?」 

「ええ。勇気のない私では、可哀そうですし…貴方は、霊に好かれているようですから。この子も、きっと喜ぶでしょう」

「霊に好かれてるのかぁ…ま、まあ分かった」

褪せ人は少女から箱を受け取ると、自らの鞄を開けた。同じく狼の姿が彫られた小箱の隣に仕舞い込むと、少女に向き直る。

「前にも狼の遺灰を貰った事があるんだけど、なんだか旅の仲間が増えるみたいで嬉しいね」

言ってから、これは失言だったのでは、と褪せ人は思い至る。が、もう遅い。

少女は俯向いて笑う。そして小さく、だが雨嵐の中でも聞こえるくらいはっきりと囁くのだ。

「そうですね…もし貴方がストームヴィルの城に向かうのなら、蛹の皆にお伝えください。愛していますと。私はまだ臆病なままですが、きっと、同じになりますと」

「…分かった」

褪せ人はそれ以上言葉を紡げず、ただただ、頷くしか出来なかった。

そうして褪せ人は逃げるようにボロ家を後にし、霊馬共に雨の打ち付ける道を駆ける。目指すは祝福の指す先、ストームヴィル城─

「ちょっと待った!」

トクサの声に、栗毛の男は語るのを止める。

「え、なになにトクサさん」

「何じゃないよ、その狼の遺灰って何?霊馬の話も急に出て来たじゃん!ヴァレーさんと別れてその少女に会うまでに絶対何かあったでしょ!」

「あれ?トクサさんは遺灰について知らない?」

男の言葉にトクサは頬を膨らませる。

「むぅ〜。もしかして私、馬鹿にされてる?」

「違う、違うよ!そうじゃなくて…」

男が周囲を見渡すと、皆一様に首を傾げていた。

「まあ、遺灰は知ってても霊馬は聞いたことがないですね」

「私は遺灰も馴染みがないな」

皆の様子に男は顎に手を乗せ考え込む。そして日記を閉じ鞄に突っ込むと、そのまま立ち上がった。

「折角なら見せた方が早いかも。ちょっと外に行こうか」

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